令和6年6月14日 『BHN桑原基金寄付講座』 :第9回 「農業・漁業分野における情報通信」

2024年6月25日(火)14:43

 

2024年度前学期 「SDGsを支える情報通信論」

4月月12日(金)からスタートしている本講座の9回目となる授業が、6月14日(金)に電気通信大学(以下、電通大)で実施され、対面とオンラインによる授業形式で進められ、この日は電通大の教室に7名の参加がありました。なお、本講座では後でビデオによるオンデマンドで受講をする学生もいます。

今回は、「農業・漁業分野における情報通信」というテーマで 石橋 孝一郎/電通大名誉教授(BHNプロジェクトオフィサー)が、農業・漁業分野での遠隔情報通信(スマートアグリカルチャー)について講義をされました。

なお、本講義も終始英語でおこなわれました。

 

[第9回講義]:「農業・漁業分野における情報通信」  石橋 孝一郎講師

 

電気通信大学キャンパス 東3号館3階301教室での様子

 

講義を行う石橋講師(電通大名誉教授)

 

● スマートアグリカルチャ―(スマート農業システム)について

スマート農業には様々なタイプの農場があります

・1番目のタイプは屋内農場 (建物内で植物を育てる工場のようなもの)

建物内では、植物が棚で育てられ、植物を照らすためのLEDライトがあります。そして、これらの棚にはセンサーが取り付けられています。

・2番目のタイプは、ビニールハウス内の屋内農場

このスタイルは、特に日本でよく使用されています。ビニールハウスはもともと日本で人気があります。スマート農業システムでは、ビニールハウスの1カ所にセンサーが設置され、センサーからデータがデータベースに送信されます。

・3番目は屋外農場

屋外農場でのスマート農業の従来の農場です。センサーも農場に配置または配布されますが、農家が写真を撮ってサーバーに送信することもあります。

 

スマート農業には様々なスタイルがある中で、データはインターネットを通じてサーバーに送信され、その後、データベース内でデータ処理がされたのちAI システムによって分析処理されるものもあります。

この分析をもとに、種まき時期、水位、施肥場所やタイミング等、役立つ情報や提案が生成されます。

役立つ情報や提案は農家に送信され、農家は農場に対して効果的な行動をとることができます。

最近では、ロボットによる種まき、自動給水、ドローンによる施肥等の作業がおこなわれています。これらが典型的なスマート農業システムです。

 

また、近年の日本国内及び海外でのIoT(Internet of Things)を活用した、スマート農業の事例もYouTubeの動画で紹介され、各国の事例から、IOT利活用がSDGsの社会課題解決に有効であることが話されました。

 

● スマート農業、スマート水産養殖の例

IoTセンサーからのデータが農業と水産養殖にどのように有用な情報を提供するかが紹介されました。

 

例1:IoT支援農業→スマート農業
ビートセンサーを使用した植物成長センシング

 

例2:IoT支援水産養殖→スマート水産養殖
ベトナムのエビ会社のセンサーネットワーク

 

 特に講義の中で興味深かった内容は「ベトナムでの水産養殖」についてです。

2015年に行われたベトナムのエビ養殖場は、ホーチミンに近いファンティエットの海岸と砂州の間に多くあり、それらが統合されていました。水田の様なバナメイエビ養殖用プールをいくつも設置し、プールのサイズは30メートル四方、または100メートルまでで、水深はほぼ1メートルで、エビが成長する密度は1平方メートルあたり50〜100匹、講義ではエビの養殖作業の様子も動画で紹介されました。

 

ファンティエットのエビ養殖用プール

 

2015年当時の成長コストは1キログラムあたり約6ドルで、1回の収穫には3~4カ月かかります。

エビ養殖が終わったら、プール内の水はそれぞれ川や海から補給をして、ローテーター(旋回撹拌に使われる機器) により水を撹拌させ酸素を補充しますが、このローテーターにはたくさんの回転子が付いていて、電力コストは高かったことと、当時は34%ものエビが死滅することがエビ養殖場の問題でした。

 

・何が起こったのかを理解するためIoT センサーを設置

そこでIoTセンサー導入の試みとして、ビントンボン養殖場で3日間、水中の酸素濃度、ペーハー値、水温の調査をし、また、ソーラーパネルで生成されたエネルギーでシステムが動作できるようにしました。

このデータ収集で、エビプール内での化学変化として植物性プランクトンによる光合成、酸化化合物の増加、ミネラルによるバクテリア増加、細菌による二酸化炭素やメタンガス、アンモニア等有害物質の増加という化学反応があることが分かりました。

溶存酸素濃度データでは日中は酸素濃度が高くなり、夜間は酸素濃度が低くなります。エビが大きくなるにつれて状況は悪化し、このデータによりエビが死滅した原因が分かりました。

また、日に日に増加していく電気代もIoTセンサーで得られたデータを活用して、水中に十分な酸素がある時は、ローテーターの動作を停止させることで電子機器のコストを30%削減でき、エビの養殖総コストの削減ができました。

 

エビ養殖場にIoTセンサーを導入することにより

・センサーを使用することで水面下でのエビの状態を知ることができる

・IoTを導入するメリットはあるが、コストを常に考慮する必要があるので、IoTを導入してコストを削減

し、利益を得ることは農家にとって非常に重要です。

 

● 今回の講義の最終的な結論として

・IoT技術は農業や水産業の生産性向上に役立つ

・スマート農業とスマート水産養殖業は多くのSDGsに貢献している

 

最後に聴講者からは、以下の質問が寄せられました。

Q1:ヘテロワイヤレスセンサーネットワークの「ヘテロワイヤレス」の意味は何ですか?

A:この場合の“Heterogeneous”とは、いくつかの種類のセンサーということを意味します。センサーとはカメラを含め、pH、DO、温度等のことでタイトルにある通り、様々なタイプのセンサーを試みました。

Q2:プレゼンテーション全体を通じてデータが IoT で収集されますが、たとえばこの収集されたデータはAIで解析可能ですか? その場合どのような AI モデルを使用して解析できますか?

A:インドでは人々が農場で写真を撮って、サーバーにデータを送ります。画像処理プロセッサのAIモデルとして、CNN(Convolutional Neural Network) 等は、画像処理に非常に適しています。多くの企業がAI モデルは、農家に有益な情報を提供するのに適していると言っています。

Q3:スマート農業においてもセキュリティーは重要だと思いますがどのような対策がされていますか?

A:セキュリティーは重要です。通信システム上には多くのセキュリティーアルゴリズムがあります。通常はそのアルゴリズムを利用しデータを安全に管理しています。

Q4:日本が取り組んでいるアグリカルチャ―に関する国家プロジェクト、または商業的なものとして特定のプロジェクトはありますか?

A:日本では農業に適したIoTセンサーやデータベースシステムの会社があるのは知っています。その 1つとして、日本の場合は農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)があります。農研機構は食料・農業・農村に関する研究開発を行う機関で、ウェブサイトもあって日本のスマート農業の状況その情報を得ることができます。

Q5:エビ養殖場1カ所における成長コストの部分で、エビが成長していく中でどのようにして酸素をコントロールしたのですか?

A:プールの状態が危険になるタイミングをデータで見て、ローテーターを使用して酸素量を集中的に高めました。

 

今回参加した学生たちは、世界各国でIoTの活用について様々な研究開発がされており、中には実験レベルから実用化に至っている事例もあることを非常に興味深く聴講していました。また運用していく中でのネットセキュリティーやコスト削減といった事柄にも関心を示していました。

電通大での学びを活かし、今後も更にIoT市場規模を拡大させる人材として活躍して欲しいと思います。

     

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